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ノットの話


私はレーザーを始めてから、暦の上ではもう10年を越えてしまいましたが、いまだに馴染めないことがあります。

それは、レーザーをやる人の間では、風速をメーター(m/s)で言う人が多い(ほぼ全員といってもいいくらい)、ということです。海体で他のディンギーをやっている人たちも同じくメーター派のようです。私は、ヨットにおいては風速はノットで言うものだ、と思っていましたので、人が風速をメーターで言うのを聞いていると、どうしても違和感をもってしまうのです。

もっとも学生時代は、私も風速をメーターで言っていました。しかし社会人になってクルーザーを始めた時、すぐにノットに矯正されました。クルーザーにはスピードメーターや風向計、風速計などの計器がついていて、艇速や見かけの風向/風速、真の風向/風速、VMG(※)などが表示されるようになっていましたが、艇速/風速の単位がみんなノットなのです。

真の風向/風速、VMGは、艇速と見かけの風向/風速とを合成して求めますので、艇速と風速の単位を同じにしておくと計算しやすくなります。感覚的にも、アップウィンドの時の見かけの風速がこれくらいで艇速がこれくらいだから、ダウンウィンドになったら見かけの風速はこれくらいになるだろう、などと見当をつけやすくなります。

ノットに縁の深い単位として、「マイル」があります。ご承知のように、1ノットとは時速1マイルのことです。1マイルとは、緯度1分に相当する子午線の長さで、1.852kmです。マイルには「陸(おか)マイル(statute mile: 1,760ヤード、約1.6km)」と「海マイル(nautical mile)」とがありますが、ヨットの話の中で単に「マイル」と言った場合、それは「海マイル」を指します。

チャート(海図)を見たことのある方はご存じと思いますが、チャートの縦の目盛には緯度がそのまま使われています。2点間の距離を求めるのに、デバイダーの針先をその2点に合わせ、それを縦の目盛にあてがうと、2点間の距離がそのままマイルで読み取れます。それを船の速度(単位はノット)で割ると、即座にその2点間を移動するのにかかる時間を求めることができます。

チャートには潮流も書かれていて、その単位もノットです。潮の速さと方向は時間とともに変わっていきますが、自船の速度/進路(コンパス方位)に合成することで、だいたいの対地速度/進路を知ることができます。さらに、潮流によって受ける見かけの風の変化も推測できるでしょう。

距離の単位にマイルを用い、船の速度、潮の速さ、風速の単位をノットに統一することは、それなりに意味のあることなのです。

風速をノットで言うのはヨットの分野だけではありません。例えば「ビューフォート風力階級」。風力3とか4とかいうやつです。風速3.4~5.4メーターであれば風力3、などとなっていますが、なんでこんな端数で定義されているのでしょうか。それは、もともとノットで定義されているものをメーターに換算しているからです(風力3は7~10ノット)。

台風の強さの定義もノットです。最大風速が34ノット以上が「台風」、64ノット以上なら「強い台風」、... というふうに。ただし天気予報ではメーターに直されています。

余談ですが、飛行機の速度もノットで言うようです。以前、テレビでゼロ戦の番組をやっていて、ゼロ戦を設計した人のノートが映されていましたが、速度の単位はノットでした。映画「紅の豚」でも飛行艇の修理を依頼するのに、ポルコが「あと15ノットほどほしいんだ」と言う場面があります。

結構いろいろなところで使われているノットですが、レーザーをやるだけなら風速をメーターで言ってもいっこうに構わないかもしれません。しかし、もう少し広い範囲でヨットを見た場合、ノットを使うほうが実は便利なのです。それにそのほうが、いかにも海のスポーツ、という感じがしませんか?

なお、メーターとノットの換算は、1ノット=1.852km/h=1852m/3600s=0.514m/s ですので、メーターで言う値を2倍すれば、ほぼノットで言う値になります。

※ VMG (velocity made good for windward): 船の速度のうち、まっすぐ風上へ向かう成分のこと。VMGが最大になる角度で走るのがクローズホールド。ダウンウィンドでは値はマイナスになる。


2008年1月28日 西野・記




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