帆船徒話

ヨット用語 (その1)

今月はヨット用語について書いてみます。

ヨットで使う言葉は実に多く、しかも同じことを表すのにいろいろな言い方があります。その言い方は違うで、というのもあると思いますが、そこは話半分でみてください。

まず船の前後左右から。船首はバウ(bow)、船尾はスターン(stern)、左舷はポート(port)、右舷はスターボ(starboad)。これらの言葉は普段めったにお目にかかることはありませんが、「パイレーツ・オブ・カリビアン」など、船が出てくる映画ではちょくちょく聞くことができます。

「タイタニック」では、ケイト・ウィンスレットがバウのパルピット(pulpit)に登って両手を広げるシーンが有名でしたが、これを flying on the bow といいます。この映画が公開されて1年くらい後のころ、タイタニック・オフィシャル・ムービーツアーというのがありました。世界15都市をまわるということだったので日本にも来ていると思います。その一発目がロンドンのウェンブリー・スタジアムであったのですが、そこではタイタニック号のバウのセットが作ってあり、来場者が映画さながらのポーズで写真を撮ることができるようになっていて、長蛇の列でした。ちなみに映画のこのシーン、バウのところだけが実写で、あとはCGです。

左舷は「ポート」ですが、これは「港側」であり、よって船が着岸するときには左舷側を着けます。フェリーなどは必ずしもそうではないようでが、それでも日本丸などの大型帆船や、クィーン・エリザベス2世号などの豪華客船といった、特別な船の場合は左舷着岸のはずですので、神戸港に来たときなど意識して見られてみてはと思います。一方、飛行機は常に左舷着岸のようです。私の限られた経験上、これまで飛行機には左側からしか乗ったことがありません。

右舷/左舷に密接に関係するものとして「灯火の色」があります。これは、右が緑、左が赤、と決まっています。左右で色を変えることで、夜間でも灯火を見れば船がどの向きに進んでいるのかがわかります。これは飛行機も同じです。アメリカのパトカーもそうですね。

次は風の話。

風が強いところをブロー(blow)といいますが、他にパフ(puff)、ガスト(gust)という言い方もあります。それぞれ意味の違いがあるのでしょうが、私はいっしょくたにして使っています。また、ブローをプレッシャー(pressure)ということもあります。風が強くなっていくことを pressure building といいます。逆に風が弱いところはラル(lull)です。

風向(wind direction)が変わることをシフト(shift)といいます。ヨットで走っていて、風が後にシフトすることをリフト(lift)、前にシフトすることをヘッダー(header)といいます。クローズホールドでは、リフトが来ると船をさらに上らせる(luff)ことができますが、ヘッダーが来るとバウを風下に向け(bear)ないとスピードが落ちてしまいます。 (実はクローズホールド(close hauled)という言葉はあまり使わなくなりました。代わりにアップウィンド(upwind)、ビート(beat)などといいます)

ダウンウィンド、例えばクォーター(quarter lee、broad reach)で走っているとき、船のスピードが上がってくると、見かけの風(apparent wind angle)が前にシフトしてきます。これをベロシティー・ヘッダー(velocity header)といい、船をさらに風下に落とすことができるようになります。風が弱い(light air)ときは少し船を上らせてスピードをつけ、ベロシティーヘッダーを利用して船を落とし、風下への距離をかせぐ(skating)、というようなことをします。

他に、コンパスの数字が増える方向に風がシフトすることをベア(veer か?)、コンパスの数字が減る方向に風がシフトすることをバック(back)といいます。

3つ目はハーバーにて。

ヨットを係留(mooring)する桟橋はポンツーン(pontoon: 浮き桟橋) またはジェッティー(jetty: 固定桟橋)、船を長期間置いておくところはバース(berth)、ハーバーの中を行き来する渡し船はテンダー(tender)またはランチ(launch)、ヨットのこまごまとした部品を売っている店はチャンドラー(chandler)といいます。また、海から上がって一杯やる(quick beer)ところはバー(bar)といいます... われわれの活動拠点にはないものですが。

2008年3月25日西野・記


ジェッティー (英国・ダチェット、1997年12月) ダチェット(Datchet)は古い佇まいが\残る小さい町。川(テムズ川です)に突き出ているのがジェッティー。[画像クリックで拡大]