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メーデー


5月にちなんでメーデー、といっても遭難信号の話です。

このメーデーは MAYDAY と書くことはありますが、これは当て字で、もとは Help me. の意味の仏語 M'aidez です。

遭難信号にはSOSもありますが、無線で言葉(無線電話)で言うときはメーデー、電信(トン・ツーのモールス信号)のときはSOS (・・・---・・・) です。ただし、電信によるSOSは今は使われていないようです。

SOSにくらべるとメーデーはあまり知られていないのか、映画「ダイハード」の、ブルース・ウィリスがビルの屋上から無線で救援を呼ぶシーンで、もとの台詞は「メーデー、メーデー」でしたが、TVで放送したときの吹き替えは「エスオーエス」でした。

無線でメーデーを出す場合、免許は要りません。ですので、遭難しているのに無線の免許を持っていないために救助を呼べない、という事態は避けられます。また、どのような周波数、どのような出力で出してもかまわず、そのために他の通信を妨害するのも許されます。※1

このように何をやってもよい、という特権を与えられたメーデーですが、誰かが受信してくれる周波数で出さなければ意味がありません。ヨットでは国際VHFの16chを使います。これは国際遭難安全周波数と呼ばれる特別なチャンネルで、海上保安庁をはじめ付近の船舶がワッチしていますので確実です。国際VHFの無線機には、緊急時に操作しやすいよう、一発で16chにジャンプできる専用のボタンがついています。機種によっては、どのチャンネルで受信待機していても一定間隔で16chに切り替え、入感があるかどうかがわかるようになっているものもあります。マリンVHFは、国際VHFのチャンネルの一部をヨットなどのプレジャーボートに割り当てたものです。※2

メーデーを出す場合には、船の名前と自分の位置、遭難の状況を伝える必要があります。とくに自分の位置(通常は緯度・経度)は、言わなければ助けに来てもらえません。

遭難信号をどのような周波数で出してもよい、ということは、うかつには出せない、ということでもあります。昔、ピンクレディーの歌に「SOS」というのがありましたが、このイントロにSOSのモールス信号が入っていたそうです。ところがそのレコードをラジオの番組で流すとSOSが電波で発信されてしまい、本物の遭難信号とみなされてしまうので、イントロにSOSのモールス信号が入っていない特別バージョンを作り、ラジオ局に配ったそうです。(SOSは電信の場合の遭難信号であり、言葉で「エスオーエス」と言っても遭難信号にならないので歌うのはかまわない) また、ノキアの携帯電話では着信音にSOSを選べましたが(当時、空港の待合室ではあちこちでSOSが鳴っていました)、実際にはSOSではなくSNS (・・・--・・・) でした。

一方、労働者の集会を伝えるニュースで「メーデー」と言ってもだいじょうぶなのは、遭難信号のときは「メーデー」を3回繰り返すことになっているので、1回だけ言っても遭難信号にならないためだと思われます。

メーデー以外の遭難信号としては、イーパブを飛ばす、パラシュートフレアを上げる、などがあります。イーパブ(EPIRB: Emergency Position Indicate Radio Beacon)は赤い筒状の発信機で、スイッチを入れると(水圧でもスイッチが入ります)電波を出し、それを衛星で受けて遭難位置がわかるようになっています。パラシュートフレアはパラシュートのついた照明弾で(昼間でもめちゃめちゃ明るい)、細い筒に入っていて、打ち上げ花火のようなものです。打ち上げるときは、垂直よりもやや風上側に斜めに向けて発射します。

今回の話は、ディンギーをやるうえではほとんど必要ありませんが、知っておいて損はないかと。

※1: そのはずです(電波法第52条)。 無線の免許には無線局の免許と従事者の免許とがあり、無線機を船に設置する段階で無線局の免許が必要です。
※2: 国際VHFが出力25Wなのに対し、マリンVHFは5W、という違いもあります。(2008/10/17追記)

2008年5月29日 西野・記


救助訓練  
救助訓練 (英国・サザンプトン、1998年2月)
水中から吊り上げてもらうときは、膝をかかえたような姿勢で吊り上げてもらいます。脚を下に伸ばした姿勢で吊り上げられると、脚にかかっていた水圧が急に開放され、貧血になってしまいます。
ヨットの上から吊り上げてもらうときは、セールを降ろすか、ポートのクローズホールドで走らせます。クローズホールドだと船が安定するのと、ヘリコプターのウインチは右側に付いているので、ポートタックだと船と平行して飛んだときにヘリから見やすいからです。
ところで、イギリスでヨット乗りが使っていたハンディーの無線機にはMODというボタンがついていました。MODとはMinistry of Defence のことで、このボタンを押すと海軍につながるのだそうです。[画像クリックで拡大]
 



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