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繊維の時代


青い海に白い帆、という夏の風物詩はディンギーでは健在であるものの、クルーザーではすでに遠い昔のことになっています。ヨットの帆が白でなくなったのはケブラーが使われるようになってからで、以来、帆の色は金色が主流になってしまいました。

ケブラーのセールが登場したのは20数年前。当初、ケブラーは紫外線に弱い、折り曲げると繊維が切れる、といった欠点があり、取り扱いには細心の注意が求められました。ケブラーのジブの寿命はタック80回まで、などと言われ、シバーもさせられないほどでした。それでも鉄の5倍の強さを持ち、軽い、伸びない、というケブラーの特長は欠点を補って余りあり、ケブラーセールは瞬く間に広まっていきました。

セールへのケブラーの採用は画期的で、セールがダクロンからケブラーに変わったとき、あまりの軽さに驚いたものです。セールの寿命も生地が伸びない分、かえって長くなったように思います。そして、鉄よりも強い繊維の出現に、新しい時代の到来を感じたのでした。

その後、ケブラーは車のタイヤや防弾ベストなどさまざまなところに使われていることを知り、ヨットというのは先端素材がいち早く使われる分野なのだな、と思ったものでした。

ケブラーとともにヨットでよく使われる繊維にスペクトラがあります。スペクトラは繊維の腰がなく、くにゃくにゃなのにケブラーより強く、切ることも容易ではありません。実際、スペクトラのロープを切るのは一苦労で、逆にナイフやはさみの刃のほうがなまってしまいます。金属の刃をなまらせるとは!

かつて、クルーザーのハリヤードやジブシートはワイヤーでした。ウインチにかけるところや人が手で引くところはロープでないといけないので、ロープにワイヤーを編み込んでありました。最初にそれを見たときは、ワイヤーを使わないといけないほど力のかかるものを人間がコントロールできるのだろうか、と畏れを感じたものです。今ではこれらにワイヤーを使うことはなくなり、スペクトラに置き換わりました。金属から繊維への移り変わりの一つの例がここにあります。

カーボンファイバー(炭素繊維)も使われることが多くなった材料です。ヨットでカーボンというと、たいていはカーボンファイバーを積層したコンポジット(複合)材を指します。FRPのガラス繊維の代わりにカーボンファイバーを使ったものです。

何といっても軽いのが特徴で、マストやブーム、スピンポールなどに使われます。ハルに使われることもあります。ヨット以外では、釣り竿から風力発電の風車の羽根、飛行機の翼まで、強さと軽さを要求されるところで使われています。

ケブラーが登場したとき、鉄よりも強い繊維が世の中にあるというのは驚きでした。しかし今にして思えば、金属だから強い、繊維だから弱い、というのは単なる先入観に過ぎなかったことがわかります。

2008年6月30日 西野・記





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