前回   次回
ホーム > コラム > 第7回

夜の世界


普段、ヨットに乗るのは昼であり、夜に乗ることはあまりありません。しかし夜に乗ってみると、昼とはちがったいろいろなものを見ることができます。夜、海上を走るという点では夜行フェリーも同じですが、ヨットだとスピードもゆっくりで、360度自由に見渡すことができます。

夜、海の上のヨットから見えるものを挙げていくと...

街の明かり、信号機、クルマのライト ...人口の多いところと少ないところが一目瞭然です。道路の渋滞もよくわかります。郊外ではクルマがまばらで移動する速度も速く、信号は赤黄の点滅になっていたりします。山が海に迫っていて海沿いに道がないところは暗闇です。

造船所、コンビナートの明かり ...瀬戸内海を走っていると、ところどころにあります。夜中でも照明は強烈で、産業の息吹を感じる反面、クルージング中に見る風景としてはイマイチなものがあります。

橋のライトアップ ...海上から見るのがベスト。明石海峡大橋では1時間毎にレインボーの電飾をやっています。橋の照明で海面も明るく、安全の面でもよいのでしょうが、一方では明るすぎて夜の海の神秘性が失われているようにも思います。瀬戸内海では、瀬戸大橋やしまなみ海道ができてからは、夜でも照明が明々と点いて遠くからでもよく見えるので、ナビゲーションの楽しみが減ってしまいました。

本船※ ...フェリーは客室や廊下の照明が明々と点いていますが、貨物船は航海灯以外はほぼ真っ暗で、まだ距離があると思っていた本船が意外に近くを通ったりして、結構神経を使うことがあります。それでも夜、本船が航路に沿って連なって進んでいるのを見ると、まるで道のようであり、海上にも物流の大動脈があることを実感します。

漁船 ...漁労中だと、曳いている網も避けないといけないので要注意です。イカ釣り船の集団を見ることもありますし、明け方近く、漁場へ急ぐ加太の鯛釣りの高速漁船に出会うこともあります。

灯台、航路ブイ ...夜の海に出てみないと値打ちがわからないものの典型。ハイテクのGPSよりローテクの灯台のほうが圧倒的に信頼感があります。

夜光虫 ...プランクトンの一種で、船が波を切ったりして刺激を与えると光ります。風のない夜に真っ平らな海面を機走していると、スクリューで攪き回された夜光虫が光を放ち、エメラルド色の航跡ができます。プランクトンの多い、汚れた大阪湾ならではの幻想的なシーンで、大阪湾を抜けて海がきれいになると見られなくなります。

星空 ...紀伊水道を出て串本あたりまで行くと、晴れていれば満天の星を見ることができます。天の川の中の小さい星も見え、星に包まれているような気分になります。流れ星も、こんなに頻繁に見えるものだったのか、と思うくらい見えます。

ざっとこんなところでしょうか。

昼なら多くのものが目に入るのに対し、夜は光るものしか見えません。その情報量の少なさが、昼では気付かなかったものを際だたせてくれます。ご参考までに、夜間航海でお世話になる灯台と航海灯について、その例を載せておきます。

※ 貨物船など大型の動力船を「本船」と呼ぶようです。

2008年7月30日 西野・記


御前埼灯台 潮岬灯台
御前埼灯台 (静岡県、2006年8月)
写真は岸から撮ったものだが、沖合(遠州灘)から見ると、左手に御前埼灯台、右手に伊豆半島南端の石廊埼(いろうさき)灯台があり、その間には真っ暗な駿河湾が広がる。灯台を表す場合、なぜか「崎」ではなく「埼」。 [画像クリックで拡大]
潮岬灯台
本州最南端。太平洋のうねりが入る。Fl 15s 49m 19M の Fl は Flashing (一瞬光る)、15s は 15秒(周期)、49m は 49メートル(灯台の光の海面からの高さ)、19M は 19マイル(光が届く距離) の略。15秒周期で1回光る。光り方は灯台によって異なるので、灯台らしき光りが見えたら、光る周期を測り、どこの灯台かを判定する。光の色は、記述がない場合は白。点線の円弧は光を出す範囲(方角)を示す。光が届く距離を示すものではない。[画像クリックで拡大]
友ケ島灯台 西宮防波堤出口
友ケ島灯台
大阪湾を出入りするときお世話になる灯台。Al Fl W R 10s 60m 20M の Al は Alternating (交互に)、Fl は Flashing (一瞬光る)、W は White (白色灯)、R は Red (赤色灯)、10s は 10秒(周期)、60m は 60メートル(灯台の光の海面からの高さ)、20M は 20マイル(光が届く距離) の略。10秒周期で白と赤が1回づつ光る。[画像クリックで拡大]
西宮の防波堤の出口 (神戸六甲アイランド東水路)
われわれの練習海面から見える灯台。図の右側が赤灯台(西宮防波堤の西端)で、3秒周期で赤が1回光る。図の左側は白灯台(神戸第7防波堤の東端)で、3秒周期で緑が1回光る(G は Green)。図の中央下の、No 2 と書いてあるのは安全水路標識(赤白縦縞のブイ)。Mo (A) とはモールス信号の A のこと。8秒周期で ・-と光る。[画像クリックで拡大]

航海灯(カード表) 航海灯(カード裏)
本船の航海灯 (カード)
本船の航海灯の見方を練習するための教材。トランプのようなカードで、裏に答えがある。黒字に黒でわかりにくいが、本船のシルエットが印刷されている。
本船の航海灯 (左のカードの裏面)
赤はポート、緑はスターボード側のライト。両方が見えているので本船はまっすぐこちらに向かっている。ミートするようなら、ヨットのほうで避けるのが無難。こちらが避けているのが相手にはっきりわかるよう、舵は大きく切る。 本船から視認されやすいように、セールを懐中電灯で照らしたりする。レーダーリフレクターを揚げるのも効果的。



© 2008  Laser Ashiya Fleet, All Rights Reserved.